2007/07/27

【提言・中越沖地震】応急危険度判定に過剰にしばられないために立ち入りの指針を

室崎益輝 総務省消防庁消防研究センター所長

はじめに
 中越沖地震の被災地を訪れ、現地で被災地住民を支援している地元自治体やボランティアなどの話を聞く機会があった。そこで地震直後に二次災害を防ぐために行われる応急危険度判定をめぐって、現場が混乱しているのを目の当たりにした。「危険」=赤、「要注意」=黄色、「判定済み」=緑の3種類の判定結果は、もとより強制的に行動をしばるものではないが、支援を行う行政やボランティアなどが、その結果にどう対応したらよいのか、特に「要注意」にまで立ち入り禁止を原則にするような過剰反応も見られたため、特にボランティアを念頭に置いた指針の案をまとめてみた。応急危険度判定の仕組みは、毎回、さまざまな工夫が加えられており、今回も罹災(りさい)証明との違いを明確にする記載が印刷されるようになった。現場で損傷を受けた住宅と向き合う住民や行政、ボランティアなどの活動の支えになるよう、今後も改善が進められるために、この指針案が役立つことを期待したい。

応急危険度判定による「要注意」(黄色)建物へのボランティアの立ち入りについて

1.応急危険度判定の性格について
(1)二次災害防止を目的とする
 応急危険度判定は、地震後の余震や直後の大雨などによって、家屋が倒壊あるいは流出して、当該家屋の中にいた在宅者が死傷しないように、地震直後にその構造強度等に着目して、二次災害のリスクを評価するものである。
 経済的被害の強弱の認定を目的とする「罹災証明」とは目的を異にする。そのため、評価の基準も異なり、評価の結果も異なる。例えば、見舞金等の支給にかかわる罹災証明は、公正を重視するが故に精緻(せいち)観察を要求するが、災害予防にかかわる応急危険度判定は迅速を重視するが故に外観目視のみを要求している。ともかく、罹災証明あるいはその後に行われる被災度区分判定などと混同してはならない。
(2)法によらない任意調査である
 応急危険度判定は、地域防災計画などにおいては行政課題として設定されているが、“災害救助法に基づく罹災証明”というような法的根拠は持たない。従って、その判定結果はその建物利用者等に対する専門家のアドバイスに過ぎない。建物利用者等はこのアドバイスを参考に、自己責任の名のもとに自己の安全確保をはかることになる。ボランティアといえど立ち入るには自己責任が要求される(行政が法的に安全を保障しているものではない)。従って、後述するように、利用者が「危険=立ち入り禁止」と判定された建物に、自由に立ち入ることについて罰則を科することはできない。ただ、人命にかかわる事柄だけに、行政として強く指導啓発する「道義的責務」は負っていると考えられる。

2.応急危険度調査の判定結果について
 構造強度あるいは地盤変形等に着目して、(1)死傷の危険があるものについて「危険」(赤)と判定して、原則的に家屋内への立ち入りを禁止する、(2)死傷の危険は少ないもののその可能性がないと断定できないものについて「注意」(黄)と判定して、立ち入りは禁止しないが万一に備えての注意義務を課する、(3)基本的に危険なしと考えられるものについて「調査済み」(緑)(判定士に結果責任を押しつけないために「安全」と表記しない)と判定して、自由に立ち入りを認める。

 ところでこの「判定結果の受けとめ」については、次の2つの点に留意する必要がある。
 第1の点は、その判定は即断ゆえの大ざっぱなものであること(といってもまったくいい加減なものというわけではありません)。というのは、次の余震がくるまでに判定が完了しなければならず、急いで調査や判定を行う必要に迫られるためであり、また調査中にも余震等があるかもしれない状況で行うので、判定士の安全確保のため家屋の中に入ることを許さないためである。
 第2の点は、その判定は状況の変化により修正されるものであること。それは、余震や地すべりの発生の危険、したがって倒壊の危険が、時間の経過や対策の実施により減少していく、あるいは繰り返す余震や新たに発生した降雨等により倒壊の危険が状況の変化により増大する場合があるからである。

 さて第1の点については、応急危険度判定士は「安全側に判定する」ことを義務付けられることになる。限られた情報や限られた時間のなかで、確信を持って判断できないときは、黄よりも赤、緑よりも黄に判定することが推奨されている。したがって、罹災証明で半壊や一部損壊の認定を受けるものでも応急危険度判定の段階では赤の判定を受けることがしばしばある。詳細に調べればまったく危険のないものが応急危険度判定の段階では黄の判定を受けることもしばしばある。こうした結果については、判定結果についての多少の疑義や誤差があっても安全を優先する立場からは受け入れざるを得ないものである。もっとも、判定結果の誤差を小さくするために、判定士がそのスキルの向上を図るよう努力しければならないのは言うまでもない。
 第2の点については、時間の経過や状況の変化に応じて結果を修正していくことが求められる。すでに危険が解消されたのに、いつまでも赤紙を張ったままにしていることは、被災者にとっては迷惑なことであり、判定士としても無責任なことと言える。ところが遺憾なことに、現行の応急危険度判定のしくみの中では、この修正見直しをはかる手続きは無い。その結果、1週間たっても1カ月たってもこの判定結果の紙は張りっぱなしである。この張りっぱなしということが応急危険度判定の信頼性や権威を低めることにつながっている。後述するような「赤と判定された家屋に住人がなし崩し的に住み始める」といった現象が生まれるのも、このいい加減さに起因している。ということで、この制度疲労としての「いい加減さ」をなくす努力は欠かせない。もし、マンパワーの問題として見直しができないのであれば、期限を切って(余震の発生確率と連動させて)キャンセルすることも考えられよう。

3.判定結果と立ち入り要件について
 被災者は、とりあえずの生活に必要なものを取り出したい、復旧に向けて家の中で後片付けをしたい、慣れ親しんだ場所で生活を継続したいなどの、欲求を持っている。ところでこれらの欲求は、危険だからと頭ごなしに排除できるものではない。復旧への希望を見いだすこと、コミュニティーとの関係を維持することは、生命の安全と同様に被災者にとって欠かすことができないからである。となると、安全の確保と生活の保持という2つのニーズを同時に追求する姿勢に立つことが、判定士にも行政にもそしてボランティアにも要求されることになる。

 この姿勢に立つ時、第1に無謀に危険な家屋に入って生活をしている居住者を正しく指導して、立ち入りの中止を含めた安全防護措置をはかることが、要求される。行政は、危険な家屋には入るなと言いつつも、それを禁じるための措置をほとんど講じていない。第2に「危険」あるいは「要注意」と判定されていても、安全確保のための措置を講じつつ、立ち入ることを認めることが、同時に要求される。この点については、自己責任の問題ではあるが、危険と言って立ち入りを禁止するだけではなく、どうすれば立ち入ることができるかを具体的に示すことが欠かせない。被災者の立場に立つならば、安全確保の要件をむしろ示すべきである。また、このことは行政だけではなく、専門家としての判定士にも要求される。赤色や黄色の判定結果の紙に、できるだけ具体的に理由を書くようにしなければならないのは、説明責任の問題であるとともに立ち入り要件明示の問題でもある。
 ところで、再確認しておきたいのは、危険と判定されたとしても、要注意と判定されたとしても、立ち入りを禁止しているものでない、ということである。赤の場合は、専門家の立ち会いあるいは助言のもとに必要な措置を講じて、立ち入ることができる。黄の場合は、専門家の助言を得る必要はなく、自己の注意力と判断に基づいて、立ち入ることができる。赤の場合は「立ち入り原則禁止」で安全が確認できた場合のみ立ち入り可、黄の場合は「立ち入り原則許可」で危険が不可避と判断される場合のみ立ち入り不可となる。いずれにしても、安全確保をはかることが要件であることに変わりは無い。

4.ボランティアらが立ち入るための環境整備について
 復旧や復興にはスピードが要求される。「家屋の後片付け」はそのスピードをあげるための、被災者ニーズにそった重要な作業である。家屋の片づけには、当事者である被災者はもとより近隣、友人さらには、ボランティアが立ち入ることが欠かせない。そのために、立ち入り環境の整備を図ることが、行政や支援団体に求められる。先に述べたように立ち入りは自己責任であるので、立ち入る側が自らの判断で必要な防護措置をとる事が求められる。とはいえ、立ち入る側に任せておけば良いかというと、決してそうではない。行政や判定士等は、居住者やボランティアが正しい対応をするように、立ち入り基準を具体的に示す、判定の見直しをはかるなどの、技術的支援をしなければならない。なお、行政等の技術的支援が得られない場合においても、ボランティア団体が自主基準を示して、被災者の生活回復や住宅再建をはかるための立ち入りを支援することが期待される。

(1)判定士は、判定結果に変更の必要が生じた時、また被災者等の要求に応じて再調査し変更が可能となった時、判定結果を変更し張り紙を変えるようにする。行政も、倒れ込みの恐れのある隣家が撤去された、落下の危険のある屋根瓦が撤去されたなどの、判定士の判断なしに安全が確認できる場合、判定結果を速やかに変更する。その結果、緑となった場合には、立ち入りを認める。
(2)赤の場合は、建築士会などの専門家の協力と助言を個別に得て、黄の場合は、あらかじめ定めたガイドラインに照らして、安全措置を講じて立ち入りを図るようにする。ガイドラインの案は次節に示す。この安全措置には、支柱付加などの構造的サポート、時間や天候などの制約提示、ヘルメットや安全靴などの着衣保護、不測事態における行動マニュアルなどが考えられる。

5.「要注意」建物への立ち入りガイドライン
(1)要注意の原因の「解消」のケース
 行政等による見直しが行われない場合においても、要注意の要件が立ち入り時点においてなお存在しているかどうかを確認する。
以下の場合は、要件が解消されて安全と考えて、立ち入る。
・倒壊の恐れのある隣家や壁等が撤去された
・落下の恐れのある屋根瓦等が撤去された
・地滑り等の恐れのある斜面が解消された

(2)要注意の原因が立ち入りに重大な影響を及ぼさないケース
 家屋の構造等に直接影響しないことが原因とされている場合で、見張りや周辺確認等の注意で危険が回避できると確認できる場合は、見張りを置くなどの周辺に対する注意を条件に、危険な場所を通らずに立ち入る。
・庭の灯籠(とうろう)やブロック塀などの転倒により屋外での通行に支障があるが回避できる
・外壁の壁などに落下の恐れがあるが回避できる

(3)要注意の原因が倒壊につながるほど重大でないと判断できるケース
 壁や基礎のクラックが原因とされている時、その亀裂が軽微で家屋の強度が失われていないと判断される時、見張りを置くなど家屋に対する注意を条件に立ち入る
・不等沈下などが進行していない
・クラックの幅や長さが拡大していない
・家屋や壁の傾きが大きくない

(4)地盤の崩壊等の危険が指摘されているが降雨に左右されるケース
 晴天時に限定して立ち入りを認める

(5) その他
 専門等のアドバイスにより安全が確認された場合、その指示に従って立ち入りを認める。なお、以下の場合は専門家の助言を得るようにする。
・構造強度が失われていると判断される時
・壁等が大きく傾斜している時
・屋根等の落下の恐れがある時
・地盤が大きく移動や変形している時
・傾斜や沈下等が進行している時

なお、いずれの場合も以下の条件を遵守(じゅんしゅ)すること
(1) 昼間に実施すること
(2) 全貌(ぜんぼう)を見渡せる位置に見張りを必ず立てること
(3) ヘルメット、安全靴、笛等の着用をはかること
(4) 不測の事態に備え、避難経路と退避空間の確認をしておくこと

6.留意事項
 なお、罹災証明が未決着の場合で、家財等の被害状況の確認が必要となる場合があるので、被災者の責任で後片付けの前に写真等をとって、財産ベースの被害を証明できるようにしておくこと。(了)